摂食障害とスポーツの関係

摂食障害とスポーツの関係

スポーツがきっかけで摂食障害になることもある!?

スポーツといえば健康にいいと思われがちですが、スポーツに真面目に取り組む人ほど摂食障害に陥りやすいともいわれています。一体どうしてスポーツが摂食障害を引き起こすきっかけになってしまうのでしょうか。

スポーツと摂食障害の関係について見ていきましょう。

なぜスポーツが摂食障害を引き起こすのか

スポーツは競技種目によっては体重制限が設けられていたり、容姿が勝ち負けを決める採点に影響したりと、ダイエットが必要となる競技も多いです。

また、体脂肪が高いことは、運動する上ではマイナス要因であると考える指導者の中には、極端にダイエットをすることが体におよぼす悪影響を、しっかりと認識できていない方も残念ながら少なくありません。

スポーツ選手として勝つことを求めるあまり、運動に打ち込むあまりに体重を落とすことに没頭し、過度なダイエットから摂食障害に陥るケースは、枚挙にいとまがありません。

体を動かすと当然空腹感を感じるものですが、極端な練習などにより運動をしすぎると、かえって食欲が低下するケースもあります。

極度なダイエットと激しい運動を並行して行うことで体重が減り、動いているのに食べられず、さらに体重が減る…。そんな悪循環に陥りやすいのです。

摂食障害に陥りやすいスポーツ

女子アスリートの食行動の違いを、スポーツ種目別に調査した研究では、容姿やパフォーマンスのために痩せることが求められるスポーツをするアスリートが、最も食行動に関する問題を抱えていたそうです。

柔道のように体重が階級を分ける競技も、食行動で問題を抱えやすいと言われています。

竹内らが、女子アスリート及び一般女学生を対象に栄養摂取調査を行った結果、激しい体重制限や極端に細い身体像を要するスポーツ競技においては、過食行為や身体イメージの崩壊などの摂食障害傾向が極めて高いことを報告している。また、山崎・中込が対象とした女子アスリートでは、すべてのアスリートが現在の体型よりも細いボディイメージを理想としていたが、その中でも特に細い体系が要求されるスポーツ種目を行う女子アスリートは「食べる」という行為に罪悪感を持ちやすいと報告している。

出典:(PDF)『女子スポーツ選手の摂食行動に関する研究』慶應義塾大学体育研究所紀要,40(1),pp.39-41,2001 [PDF]

例えば新体操やフィギュアスケート、バレエ、ダンスなどスタイルや美しさが競技の得点に影響をすると考えられるスポーツは、摂食障害を引き起こしやすい種目といえるでしょう。

また、ボクシングや柔道など体重により階級が決められるスポーツ競技も同様です。

スポーツ選手は摂食障害の診断・発見が難しい

もともと運動により痩せ型体型の人が多いスポーツ選手は、適正体重の判定や身体的条件からの摂食障害の診断が困難です。

また、摂食障害を発症していたとしても、「体重が軽い方が強くなれる/勝てる」と、さらに痩せようとダイエットを続けてしまう例もあります。

そのため、スポーツ選手の摂食障害は、通常の摂食障害と比べても治療しにくい傾向があるようです。

小神野による1996年の4体育系大学女子アスリート1,000名に対する調査では、一般女性の3%に対し、審美系12%、持久系スポーツ20%が、質問紙法を用いた調査であるEating Attitude Test(EAT)の短縮版,EAT-26による調査で20点以上を示す、摂食障害類似者の割合であった。〜中略〜もともと痩せのため、適正体重の判定は難しく、診断が困難で、発症していても痩せの正当化をするためにスポーツにより取り組むこともあり、一般の摂食障害と比較して、難治性になりやすいとされている

出典:『スポーツによる拒食症』日本臨床スポーツ医学会誌

9割以上が女性、さらに患者は10〜20代が多いとされる摂食障害は、成長期に必要な栄養を摂取できず痩せてしまうことで、骨粗鬆症や低身長など、その後の人生にも大きく影を落とす事態を招きかねません。

こうしたことからも、スポーツが引き金となる摂食障害は、指導者やスポーツ界の摂食障害への意識の向上が何よりも必要です。

また、摂食障害が引き起こすアスリートへのリスクについて、きちんとアスリートたちに伝えていくことも今後ますます必要となってくるのではないでしょうか。

健康的なはずの運動が、かえって健康を損ねてしまうことがないように、スポーツをされている方は、気をつけましょう。

スポーツが原因となった摂食障害の事例

元マラソンの日本代表という、トップアスリートでありながら、北関東のコンビニエンスストアで万引きをしたとして窃盗罪に問われたHさん。2017年に初公判が開かれ、有罪判決を受けたことが報道されました。

裁判では、Hさんが現役時代、マラソン競技のために厳しい体重制限を行なっており、その結果摂食障害を発症。過食嘔吐を繰り返していたことが明らかになりました。摂食障害では、問題行動の一つとして自傷行為や自殺未遂などに並び、万引きを繰り返すことがあるという点は、これまでも様々な研究・調査で報告されています。例えば、大病院を受診した摂食障害患者のうち、拒食症では9パーセント、過食症では33パーセントの方が、万引きを3回以上繰り返すという問題行動を抱えていたことが報告されています[1]。

この報道で改めて、スポーツが摂食障害を引き起こすきっかけとなるリスクに加えて、スポーツ界を取り巻く課題が浮き彫りとなりました。

課題1:結果・成績を求めるが故の摂食障害

増加しているという指摘もあるスポーツ選手の摂食障害。1996年に行われた体育系大学の女子アスリート1,000人を対象とした調査では、審美系(美しさを求められる)スポーツでは12パーセントが、持久系スポーツでは20パーセントの選手が摂食障害の傾向があるという結果が報告されています[2]。

また、別の研究でもハイパフォーマンスアスリートを対象とした摂食障害の有病率に関する研究では、女子アスリートで約20パーセント、男子アスリートでも実に7.7パーセントが摂食障害となっていたことが報告されています。特に、2001年に行われたイギリスの女子長距離ランナー184人を対象とした研究では、16パーセントとなる29人が摂食障害になっていたそうです[3]。

アスリートにとって、「食べること」は成績を上げるための大切なコントロール対象となっています。特に、格闘技などのように体重制限があるスポーツや、「痩せていることが美しい」と審美性が問われるスポーツ、「小柄なほうがパフォーマンスがいい」と持久力が求められるスポーツなどでは、厳格な食事制限や体重コントロールが行われることも少なくありません。

加えて、決められたトレーニング以上に過度な練習・運動をすると食欲が低下します。食べ物(エネルギー)をしっかり補給できていなければ、当然体重は減少しても運動パフォーマンスは悪化します。結果、「もっといい成績を残さなければ」と練習の一環として過度な食事制限をし、摂食障害になってしまうのです。

アスリートの場合は、もしも普通に食べたら、そのスポーツで同じレベルで競技できないかもしれない、という恐れを持つことがあります。極端に高い目標を設定することが大変多いのですが、同時に、非常に自己批判的であり、特に自分の体重と体型について批判的です。目標がどんどん高くなっていきながら、そこに達することができないため、自己批判と気分の落ち込みが続くという負のスパイラルを導きます。拒食症を持つアスリートは、自分自身の設定した目標にも、コーチや両親やアスリート仲間の期待にもこたえることができないと考えてしまうことが多いのです。

出典:(PDF)一般社団法人日本摂食障害協会「スポーツにおける摂食障害 ハイパフォーマンスアスリートの援助をする方々のためのガイドラインフレームワーク」※UK Sport発行Eating Disorders in Sportの翻訳 [PDF]

真面目で、いい成績を残したいと望む選手ほど、摂食障害に陥る危険と隣り合わせにあるとも言えるかもしれません。

課題2:指導者側の問題

上記のように、日々体重コントロールや食事制限を求められるアスリートたちが摂食障害を引き起こしやすい環境にあることに加えて、アスリートたちを指導する側の認識も問題視されています。

アスリート拒食症と呼ばれることもある、スポーツ選手の摂食障害は、過度の練習や過食嘔吐などの行動的特徴、急激な体型の変化や体重減少などの身体的特徴があると言えます。

ところが、こうした要因を指導者側が把握していたとしても、「パフォーマンスを上げるために(痩せるなら/太るなら)、過食嘔吐や極度の拒食は致し方ない」という意識・認識を持っているケースもあるのです。

きちんと食べているのか、女子アスリートであれば生理は規則的にきているのかなど、トレーナーやコーチなど指導者側が摂食障害を防ぐための健康管理はできるはずです。

ところが、多くの現場で、こうしたサポート体制が整っていないのです。

「食べろ」という圧力が摂食障害を引き起こすことも

「痩せなければ」という意識が働き、拒食症に陥ることが多いイメージのスポーツ選手の摂食障害ですが、逆に「食べろ」という圧力が摂食障害を引き起こすケースもあります。

スタミナをつけるため、体重を増やしてパワーを高めるため、など競技によって様々な理由で過剰に炭水化物を多く摂るような圧力がチーム内や監督・コーチなどからかけられれば、栄養バランスも偏ってしまいます。

きちんとパフォーマンスを上げる上では、必要以上に食べることも、摂食障害を引き起こし、結果的にアスリートたちの体を蝕むことがある点は注意しなければなりません。

スポーツによる摂食障害を予防するために

正しい知識と環境の整備が何よりも大切

では、実際にスポーツによる摂食障害を予防するためには、どんなことに気をつければいいのでしょうか?アスリートだけでなく指導者や周囲を取り巻く立場の方も知っておきたい注意点をまとめてみましょう。

アスリート自身が気をつけたいこと

スポーツで成績を残したい。もっといいパフォーマンスをしたいと思うほど、練習量を増やしたり、食事制限をしなければいけないと思い込んでしまいがちです。

けれど、摂食障害を予防するためには、一歩冷静になった視点で、自分自身の健康をきちんと維持できる範囲の練習内容や食事制限をしているかを確認してみましょう。

また、実際に摂食障害に陥ったとしても、周囲にサポートを求めることは決して「負け」ではありません。より良い成績を目指すため、競技人生が終わった後も健康な人生を送るための大切なステップと考えましょう。

また、摂食障害は疲労骨折を引き起こしやすかったり、パフォーマンスが低下したりと、自分の望む効果と真逆の結果を引き起こすリスクがあることも、きちんと認識する必要があるでしょう。

指導者・周囲が気をつけたいこと

成績を求めるアスリートが過度な体重制限を行っていないか、摂食障害に悩んでいないかを周囲や指導者はきちんとチェックしなければなりません。

例えば、体重計測は人前で測らないようにし、プライバシーを尊重する。女子アスリートであれば生理はキチンと来ているかどうか健康管理する、不用意に体に対する発言をしてアスリートの気持ちを傷つけないようにする、などが挙げられます。

また、体重減少が必ずしもパフォーマンスを高めることと直結しないこと、逆にパフォーマンスを低下させてしまうことがある点をキチンと認識し、アスリートたちにも教育する必要があります。また、過度な練習が怪我や摂食障害を引き起こすリスクがあることも伝える必要があるでしょう。

体重制限やダイエットの必要がある場合には、栄養士など専門家のサポートのもと、アスリートの健康を損なわない範囲で行われるように注意しましょう。

参考文献

[1]

出典: (PDF) 「摂食障害の認知行動療法」Jpn J Gen Hosp Psychiatry Vol. 23 No. 4 (2011)[PDF]

[2]

出典: (PDF) 「3.スポーツによる拒食症 - 西別府病院」日本臨床スポーツ医学会誌,16(2),2008 [PDF]

[3]

出典: (PDF) 一般社団法人日本摂食障害協会「スポーツにおける摂食障害 ハイパフォーマンスアスリートの援助をする方々のためのガイドラインフレームワーク」※UK Sport発行Eating Disorders in Sportの翻訳 [PDF]

[3]

出典: (PDF) 一般社団法人日本摂食障害協会「摂食障害 ―アスリートのための手引き」 [PDF]



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